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4.毛玉と少年-2


「…なぁ」
「何だ?」
「…オレはなんでこんなところで焼きそば作ってんだろう…」
 森に隠された船の側…つまりそこに船があるのにわざわざ野外で、野営用の道具まで使って、焼きそばを炒めながらジャッシュが口にすると、すでにピクニックシートにスタンバっているビシュタルトが当然のように言った。
「それはメニューが焼きそばだからだろう」
「だからなんでわざわざ外で作ってんのかって聞いてるんだよ!!」
「おう!せっかく外だもんな!バーベキューもいいよなぁ!!」
「………」
 自分の親分ことヴァルロスの笑顔に、ジャッシュはどうしようもない疲労感を覚えた。
(そうだ…そういえば親分は全く話がかみ合わない人だった…)
「…肉か…狩ってくるか?」
「わぁ!ランスロットさん、狩り出来るんですか!?」
「狩るのは、得意だ」
(何をだ、何を…)
 ティアラに返すランスロットの言葉に心の中でつっこみながら、ジャッシュは自分の質問がはるかかなたに流されていったことを感じた。…親分とそのマスターたる召喚士の少女の加入で、自分の扱いがますますどうでもよくなっていきそうな予感がする。
 ジャッシュは改めてピクニックシートで焼きそばを待つ連中を見渡した。
 全ての元凶ともいえる、かなりつかみどころの無い、科学オタクな大魔法使い。
 反逆罪の指名手配犯にして、クールな銀髪の戦闘狂美人。
 健気ではあるがかなり天然な、何を出すか分からない召喚士の少女。
 その召喚獣になった、自分の親分でもある、あらゆるところにつっこみたい暴走おやじ。
 それから、この場にはいないがもう一人。熱血ロマンチストケモノ野郎。
(あぁ…)
 なんだかもう、へこたれそうだ。
 誰か一人でもいい。まともな、ふつーな、話がちゃんとできる人が切実に欲しい。
 思わずはぁ、とため息を吐くと、それに気づいたのか、赤毛のポニーテール少女とばっちり目があってしまった。
「あ…」
 ティアラはジャッシュの沈痛な表情に何か言わなくてはと思ったらしい。少しわたわたとしながら、フォローするように口を開いた。
「お…おいしそうな匂いですよ、ジャッシュさんっ!!あたし、焼きそばも好きです!!」
「…そっかぁ…」
 ますます話がかみ合わない。
 いい子なんだけどなぁ…とフライパンの中の焼きそばに呟いていると、ぼそりとしたランスロットの声が耳に届いた。
「…帰ってこないな…」
「あ、メルカードさんですか?そうですね…心配です。この森には特に凶暴な動物とか魔獣とか魔物とかはいないはずなんですけど、地形の怪しいところがあるから…」
「それは問題ないだろう。奴はケモノだからな」
 心配そうなティアラに、ビシュタルトがよく分からない太鼓判を押す。…よく分からないといっても、ジャッシュには妙に納得できる理由にも思えた。
(たしかにあいつは地形くらいじゃ何の障害にも思わないよな…)
 氷山くらいでないと、奴を止めることはできないのではなかろうか。
「でもあいつ、とうがらしが見つかっても見つからなくても、こっちじゃなくて村の方に帰るかもしれないな…オレたち何も言わずにこっちに帰ってきたし…」
 いや、それには悪気はなかったのだ。…ただ、そう、ただ奴の存在をきれいに忘れ去っていただけで。
(…悪気があった方がマシだったかも…)
 ジャッシュが律儀に心を痛めていると、そんなこと微塵にも感じていなさそうなじじぃが髭をなでながら言った。
「それも問題ないだろう。彼は必ずこちらに帰ってくる」
「…なんで言い切れるんだ?」
「我々が何のために野外で夕食になどしていると思っている?」
「…オレさっきその理由を訊いたよな…?」
 そしてきれいに流された。しかしそのジャッシュの言葉もやはりじじぃの前には塵に等しかった。やはり見事に流される。
「彼も腹を空かせていることだろう。ならば美味そうな匂いがしていればそちらに来る」
(…奴の名誉の為には否定してやらないといけないんだろうけど、少しもそんな気にならないのはなんでだろう…)
 頭をよぎるいつもの食事風景に、ジャッシュはビシュタルトの意見が正論である、という判断しか下せなかった。
「なぁなぁ!ずっと思ってたんだが、そのメルカードってのはどんな奴だ!?仲間なんだよな?」
「…仲間…」
 ヴァルロスが興味深々で訊いてくるのに、ジャッシュはぽつりと呟く。
(…そうか…あれ、仲間ってことになるのか…今のところ…)
 一緒に旅をする同志である「仲間」という響きに、ジャッシュは少し前まで憧れていた気もしないでもなかったが、今となっては謹んで遠慮したいと思ってしまう。
(…オレにも少しくらい選択権ってもんが欲しいよなぁ…)
 どうしてこんな濃いメンツばかり集まってくるのだろう。
「ケモノ」
 出来た焼きそばを大皿に移しながら自問自答するジャッシュの背後で、すでに自分のはしを握って準備万端のランスロットがぼそりと呟いた。どうやらヴァルロスの質問に対する答えらしいが、ヴァルロスの方はその一言では意味が図れなかったらしい。(さっき仲間入りしたくせにいつ用意したのか)猫のマークの入った親分御用達の専用取り皿を抱えたままぽけっとして返す。
「けもの?」
「浮遊大陸アッシュダリアに住むガランタ族…獣人の青年だな。ロマンと情熱と体力に溢れる、良い青年だ…!」
 うむ、と頷きながら言うビシュタルトの言葉に、鎧の召喚獣は目を輝かせた。
「獣人!?うわ、それってもしかして毛がふさふさだったりするのかっ!?」
「するな。なかなか立派な白い毛並みを持ったケモノだ」
(…そこは「人」と称してやるべきなんじゃ…)
 一応でもそう思ったのはジャッシュだけだったらしい。女性二人はじじぃに同意するようにそれぞれ頷いている。
 外見に似合わずふさふさしたものや可愛いものが大好きなヴァルロスは、その説明にうずうずと手を握ったり開いたりしはじめた。
「うお〜!いいなぁ〜!!巨大なマリアンみたいなもんか〜!!」
「親分…それはちょっと失礼ですよ」
 ジャッシュはそう言ったが、獣人と猫のどちらに対して失礼なのかは言わなかった。
「あたしも少ししかお会いしてないんですけど、すっごくふさふさそうでした!しっぽとか特に!!かわいいんですっ!少しでもいいから触ってみたいです!!」
「オレはかわいくねぇ―――――っ!!!」
「キャ―――っ!?」
「ギャ―――っ!?」
 いきなりの叫び声に、思わずティアラと一緒に悲鳴を上げてしまったジャッシュは、うっかりと焼きそばの乗った大皿を取り落とした。しまった、と青ざめた瞬間、銀色の風が走りこみ、すばやくその皿を受け止める。焼きそばの一本すら取り逃さない。
「帰ったか」
「………」
 皿を見事キャッチしたランスロットに、ジャッシュは何も返せなかった。
 あまりに人間離れした動きを見たための恐怖か、それがたかが焼きそばのために行われたという情けなさの為か、そこまで腹減ってんですか、というつっこみを入れるべきか迷った為かは、きっとジャッシュ自身も分からないだろう。
 茂みから出てこないメルカードに、ティアラは慌てて立ち上がった。ぺこりと頭を下げる。
「あ、お、おかえりなさいメルさんっ!!あの、あたしこれから修行の為に、一緒に旅することになったんです!どうかよろしくお願いし」
「りゃ―――――っ!!」
 ティアラが言い終わらないうちに、メルカードは唐突に奇声を発して爪の光る右手を茂みに向けて振り下ろした。
 枝や葉が舞い散ると同時に、ぴょん、と何かが跳ねて出てくる。
「「「・・・・・・・・・。」」」
 出てきたものに、全員が目を丸くした。ほとんど一つになることのない心が、この時ばかりは一つになった。
…なんだありゃ…?
 跳ねて地面に落ちたものは、真っ白な、巨大な綿毛のように見えた。というより、そうとしか見えなかった。しかしその動きは風にたゆたうとかいう、可愛らしいものではない。
「が―――――っ!!!」
 メルカードの凄まじい攻撃を、その綿毛だか毛玉だかは紙一重で全てかわしていた。どう見ても、その攻撃を見切り、自分の意思で動いているようにみえる。
(け…毛玉が…動いてる、のか…?)
「おりゃっ!!」
 ぶん、と一際大きく振られた腕を、毛玉はぽーんと跳んで避ける。それはジャッシュたちの頭上を越え、地面に降り立った。ジャッシュたちを挟んで、メルと対峙する。
 その時、毛玉は間にいるメンバーをもちらりと一瞥した。
 −ちっ。
(え。)
 なんか今、明らかに舌打ちしたような。
「おい!チンピラっ!!」
 毛玉の舌打ち、という現象に呆然としているジャッシュに、メルカードの怒鳴り声がとんだ。
「ぐずぐずすんなっ!!そのトウガラシを捕まえろっ!!」
「…は?」
 どのトウガラシ…?つーか、トウガラシに捕まえるっている動詞は不適当なんじゃあ…
「…ええと…どの?」
「その!それだそれっ!!その白くて丸くてムカツクやつっ!!」
 …もしかして、あの毛玉だろうか。
 混乱のあまり、そのトウガラシと呼ばれているらしきものを見つめていると、メルカードが吠えた。
「ああ―――っ、もうチンピラ役立たねぇっ!!もういいっ!オレがやるっ!!」
 瞬間、頭上をぐわりと大きな影が通り過ぎた。





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背景:創天







©akihiko wataragi&reina miturugi