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1.アスライト大脱出-2 

頼まれた野菜を見てから、それを勘定してもらう。すると、八百屋のオヤジがあっと声をあげた。この八百屋には結構きているので、常連として覚えられていたようだ。
「まいどっ! おや、あんたジャッシュじゃないか!」
 八百屋のオヤジが愛想笑いを浮かべた。
「親分さんは元気かい。」
「ああ、すっごく元気だよ。」
 あれから元気を取ることの方が難しい。
「そうか〜。この前、嵐が来たときには、あの人に随分世話になったからなあ。よろしくって伝えといてくれ!」
 こんなところでも、親切なことをしていたらしい。そう考えると、ジャッシュは、リー=ヴァルロスがやくざをやっている理由がよくわからなくなってくるのである。そもそも、彼のやっていることは全然悪事でない事が多いので、あまり非合法組織を名乗るのも、本物の非合法組織の人々に失礼な気がするぐらいだ。
 ひとまず頼まれた野菜を買い込んで、ジャッシュは船に積み込んだ。後は、街でもみて、めぼしいものを買えばいい。そう思って、彼がゆっくりと街を見て回っていると、突然、屋根の上から男が降りてきた。だが、肩で息をしているし、それが辛そうなので、人のいいジャッシュは、男が屋根から落ちたのかと勘違いした。慌ててジャッシュは、男のそばに駆けつけた。
「ちょ、あんた、どうしたんだよ? 大丈夫かっ!」
 ふと、上品そうな顔立ちの、しかし身だしなみは何となくよくない男は、顔を上げた。特に外傷はないようなので、ほっとしたジャッシュだが、男がいきなり鬼気迫った表情のままジャッシュの背中に隠れたのでびくりとする。
「な、なにすんだ!」
「細かいことは訊くな。…追われておるのだ。」
 男はそういい、ジャッシュ背に隠れようとするが、よく考えなくても男の方が身長が高い。ジャッシュでもそれなりに高い方なのだが、男はさらに高いらしい。
「追われてる?」
「そうだ、この私があまりにもすばらしい才能を持っているから、私の才能を悪用しようと人が寄り集まってくるのだ。そうだ! 秘密結社にちがいない!」
「はぁ?」
 ジャッシュは、この男が何を言っているかわからず、思わず聞き返す。これは、怪しい男と関わってしまったものだ。
「才能? 悪用?」
「そうだ。とにかく、かくまうのだ、青年よ!」
「うう、よくわかんねーけど…仕方ないな。」
ジャッシュは、そういってそのまま建物の壁の方にむかった。幸いこの辺は人通りがすくないので、この怪しい男のものすごく怪しげな行動は見られていなかったようだ。
隠れながら二人してそうっと前をのぞき込む。やがて、ばたばた足音をたてながら、鎧の集団がこちらに向かってきた。ただならぬ様子にジャッシュはさっと青くなる。
「な、なんだ、あの連中…」
「むむっ! あの紋章は!」
 後ろのビシュタルトが何かに気づいたのか唸った。
「なんでえ、爺さん知ってんのかよ?」
「なんだ、秘密結社かと思ったら、あれは騎士団だな。」
 ビシュタルトがさらりといったので、ジャッシュは一瞬意味をとりそこねた。騎士団といえば、国の直轄の軍隊だ。ある意味では警察よりも恐いし、ヴァルロス一家とは対立関係にある。もっとも、厳密に言うとヴァルロスが昔えらいことをしたので恨まれているという噂であるが。
「うえええっ! 騎士団だとお! 爺さん、あんた、何やったんだよ。」
「何もやっていないのだが、そうか、悪の秘密結社の正体は王国だったのだな!」
 ビシュタルトは納得したとばかりに深くうなずいた。
「何をわけのわからんことを。」
 ジャッシュは、何となく頭が痛くなったが、ひとまず逃げる方が先である。王国騎士団に捕まってしまえば、さすがのヴァルロスも助けてくれないだろう。それに、一家に迷惑をかけるわけにもいかない。
「爺さん、出るなよ。何とかごまかしてやるから。」
「むっ、青年よ、私を逃がしてくれるのか?」
「ううっ、関わりあっちまったしな…。」
 お人好しだとは昔から言われていたが、まさか自分がこんなにお人好しだと思わなかった。ジャッシュは頭を抱えるが、関わってしまったものは仕方がない。
「よし! 爺! このまま裏路地を移動しつつ、オレの船までのっけてやるから、そっからはどうにかしろ!」
「うむ、こういうとき、しみるのは人の情だな?」
「…そんな無感動な顔で言われると、なんか、こう、胸に響かない言葉だよな。」
 ジャッシュは、軽く頭をおさえながらふうとため息をついた。
「まあいい! さっさと〜〜…ん?」
 移動しよう、と言いかけて、思わずジャッシュは言葉を飲んだ。こっそりのぞいている建物の隙間から、何か白い毛並みの生き物が早足で歩いていく。そして、前から走ってきていた騎士達と正面からぶつかった。鎧の騎士達にぶつかられ、その獣のような人影は、道にはね除けられた。
「ええい! こんなところを歩くな!」
 騎士の一人が罵声を浴びせかけ、そのまま通過しようとしたが、獣人の方は収まりがつかなかった。すぐさま獣の敏捷さで立ち上がり、彼は目をいからせて怒鳴った。
「なんだよ! そっちがぶつかってきたんだぞ! えらそうにいうな!」
「何だと! どこの獣人だ、貴様!」
 いきり立つ騎士を前を行きかけていたもう一人が、押さえる。
「ほっとけほっとけ、どうせ騎士もしらねえ田舎者なんだからよ!」
「なんだあ! 田舎じゃないぞ! オレはアッシュダリア出身だ――!」
 ぷっと騎士達が吹き出した。
「わはははは、アッシュダリアなんて、すげー辺境じゃねえか!」
「あそこは発見が遅れたんで、原始人が多いって話だったが、本当だったか!」
 笑われて、メルカードの顔は、徐々に紅潮した。といっても、獣人の顔色は外側からはわからない。ただ、その目つきがどんどん凶暴になるのだけがわかるだけである。がーっと、鋭い犬歯の生えた口を開け、メルカードは怒りの咆哮をあげた。
「なんだあ! ガランタの戦士の誇りを傷つけたな! てめえ! 誇りにかけてぶったたく!」
 地面を蹴って、うおーと吼えながら、メルカードは騎士達に襲いかかった。それを後ろの方で眺めながら、ジャッシュは、はらはらしている。
「うわ、なんかケモノっぽい奴が喧嘩売ってるぞ…!」
 それを聞いたビシュタルトは、はっとして、そして、無感動な彼にしてはかなり興奮気味に言った。
「何! そうか! 正義感に燃えるガランタの若者が天才の私を助けようとして、自らを犠牲にしたのだな!」
「それは多分違う…それにしてもなんつー真似を! 騎士に正面から逆らったら、下手したら殺されるぞ!」
 君の尊い犠牲は無駄にはしない、とでも言いたげに拳を固め、たちの悪い感動に浸っている男を無視して、ジャッシュは、騎士達に突っかかっていく獣人を見た。思わず手が腰の拳銃に伸びる。
「くそ…、こんなところで見殺しにするわけにもいかないしな…。親分に顔向けができない。」
 そういって、彼は拳銃を抜いて、ビシュタルトの方を見た。
「あんたは後ろで待っててくれよ! オレが、何とかしてくるから!」
「そうか、感心だな。皆が私の為に身を犠牲にしてくれるとは! そこまで期待されていると知っては、私もその期待に応えねばなるまい…。」
「わかったって、…それはもういいよ。」
 ジャッシュはそろそろ、この半分貴族の匂いのする男に疲れてきたので、まともに相手をしないことに決めた。
 メルカードは、騎士に飛びかかっているが、そもそも騎士は鎧を着ているので、メルカードの爪攻撃ははっきり言って無意味である。だが、さすがに獣人は力があるので、跳び蹴りぐらいは効いているようだ。
「この獣人! 撃ち殺されたいか!」
 一人の騎士が、とうとう銃を抜いた。その指がトリガーにかかった。さすがにメルカードは顔色を変え、すばやく後ずさって軽く唸った。
 と、不意に近くでパーンと何かが破裂する音が聞こえた。同時にオレンジ色の煙が吹き上がる。
「な、なんだ!」
「え、煙幕か?」
 急にでてきた煙に咳き込みながら、騎士達が相手を確かめるべく、そちらに目を向けたとき、すでに人影は煙に入ろうとしていた。同時に彼の手からまるいボールのようなものが、投げられる。それは今度は緑色の煙をふきあげて、地面に散った。
「な、なんだ、このオレンジと緑の不思議な煙のようなものは?」
 メルカードは急展開にぼーっとその綺麗な煙をみるばかりで動く気配がない。煙の中から現れたジャッシュは、慌ててメルカードのスカーフを掴んで後ろに引っ張った。引っ張ったところが悪かったのか、メルカードは首を絞められる形になり、ぐげっ、と謎の声をあげたが、必死の人影は気づかない。
「何してるんだ! はやく逃げろ!」
「ががが、何がにげろだ! くび、首首! 首が絞まるー!」
「わっ! しまった! つい!」
 ジャッシュは慌ててメルカードから手を放す。勢いついたせいで、危うく転びそうになったメルカードは、文句を言いそうになったが、すでに相手は走っていっていた。
「こら! ケモノ! 行くぞ!」
「あっ! まて、薄情者! ちんぴらっ!」
 置いて行かれてはいけない、というよりは、純粋に、首を絞められたことと、いきなり手を放された怒りと恨みで、メルカードは慌てて彼についていった。
「全く、何考えてるんだ、お前は!」
 ジャッシュはメルカードを見やりながら言った。相手が獣人だということはわかっていたが、それにしてもこのタイプの獣人はあまりみかけない。騎士達のいうように、本当に田舎者なのかも知れない。
「何にも考えてないやい! あいつらが誇りを傷つけたから戦ったんだ!」
「…あのな……」
「オレ達にとっては誇りが一番大切なんだ! お前みたいなナンパ野郎にわかるもんか!」
「誰が軟派だよ! オレなんか、すげー硬派なヴァルロス一家の一員なんだぞ、こら!」
 ジャッシュは、ナンパ呼ばわりされてむっとしたのでそう言い返すが、田舎者のメルカードが、ヴァルロス一家を知っているはずもない。
「騎士もしらねえとは! この国じゃ騎士が一番やばいんだよ!」
 ジャッシュは、呆れながらそういう。
「騎士ってのは、大体にして横暴で乱暴で、逆らうとすげー面倒な……うわっ!」
 ジャッシュは足を止めた。前方から別の騎士達が現れて、道をふさいでいる。
「しまった!」
 慌てて入れそうな路地を探すが、そちらにはビシュタルトがひっそりとたたずんでいるので、そちらには逃げられない。とりあえず逃がすといってやったのに、突き出すようなことになってはならないからだ。
「覚悟しろ!」
 騎士達は後ろと前からにじり寄ってくる。ジャッシュは、銃を握りながら、内心青ざめていた。だというのに、彼の横にいるケモノと来たら、荒い鼻息をつきながら、声を荒げた。
「そっちがその気なら、やってやろーじゃねーか! かかってこい!」
「ちょ、挑発するなー!」
 とにかく絶体絶命のピンチだ。ジャッシュはあわあわしつつ、逃げ道を探す。
 もちろん、その状況は隠れているビシュタルトにも見えていた。
「何と言うことだ! 私をかばってくれた正義感溢れる若者達が、危機にさらされている! もとより私に原因があるのに、見捨てるわけにはいかんな…!」
 大幅な勘違いだが、とにかく責任を感じたビシュタルトは、大きくうなずいた。
「しかたがあるまい。」
 ビシュタルトは、すっと前に出た。前と後ろの両側から迫ってきていた騎士達は、目標を見つけて、はっとする。
「爺、出てくるなよ!」
 ジャッシュが慌てて言うが、ビシュタルトはきいていないらしい。騎士達が気づいて、ジャッシュとメルカードから彼に目を移す。
「ようやく、決断なされましたね!」
「ビシュタルト子爵! さあ、こちらへ!」
「悪いが、そちらにいくつもりはさらさらない。」
 ビシュタルトはそう言うと、びしいっと相手を指さした。
「そこの若者達のように、私の力の為に命を賭けてくれる者がいる限り、私は世界征服に手を貸すわけにはいかんのだ――! そう、天才の力は日用品に使うべきだ! これぞ、有効利用!」
「爺さん、色々勘違いだから…」
 ジャッシュがへろへろしながら、そう呟く。絶望的状況に潤んだ瞳を上に向けて、ジャッシュは密かに懺悔をする。
(ああ、親分、すみませんー! こんな変な爺とケモノにつきあったせいで、オレ、一家の品位を落としたまま、多分獄中で餓死します…! ああ、船もらった当日にこんな目に遭うなんて! お人好しのオレの馬鹿! ついてなさすぎ!)
「何、ぶつぶつ言ってるんだ?」
 メルカードが不気味そうな顔でジャッシュを見やっているが、青ざめたジャッシュはそれどころではない。終わりだ、もう終わりだ、と呟いている。
「意味のわからないことをいっていないで! 早く来てください!」
 騎士がビシュタルトを掴もうと手を伸ばしたが、その手は途中で、止められた。一瞬ビシュタルトの碧眼が、一瞬赤く光ったような気がしたのだ。
「き、気をつけろ! 魔法を使うぞ!」
 魔術師達が、魔法を使う、つまり、自然界にある物質に働きかけるとき、時に目の光が変わる時がある。この時のビシュタルトの赤い光は間違いなくそうだ。騎士は、慌てて後ずさった。
「魔法ではない! 科学だあっ!」
 ビシュタルトはそう言いきると、手を上にあげた。途端、地面がわずかに揺れた。彼らと騎士の間の地面から赤い炎がカーテンのように上に吹き出しては上に昇っていく。
「うわっ!」
 内側に向けては炎の壁は熱気を放たないが、外側にむけてはその熱はかなり激しいらしい。燃えうつりそうな炎の勢いに、騎士達は思わず身を引く。
 ビシュタルトは、呆然としている二人に声をかけて、走り出した。
「さあ! 今の内に逃げるぞ!」
「へー、 あんたすげーな!」
「そんなことができるんなら、最初から使ってくれよ!」
 感心するメルカードと、疲れるジャッシュにビシュタルトはけろりといった。
「大きな魔法は、科学とは違うから、そんな簡単に使ってはいけない。」
「さっき科学だって言ってなかったか?」
「さて、先ほどいっていた青年の船はどこにあるのかな?」
「へー、ちんぴら、あんた船持ちなのかよ!」
「オレの話聞けよ! ケモノもごまかされるなよ!」
 ジャッシュは、そう叫びながら走る。まだ後ろの炎は燃えているらしく、騎士達が追ってくる気配はない。今の内に逃げるしかない、とジャッシュは思い、ひたすら街を走り抜けるのだった。
「くそっ! 逃げられた!」
「というか、あの二人か! ビシュタルト子爵に、秘密結社とか悪とか吹き込んだのは!」
 騎士達が炎をさけながら怒りの声をあげる。
「そうに違いない! そうか! そう吹き込んでビシュタルト子爵の誘拐をはかったのだな!! 隊長に報告だ!」
「おう!」
 炎の向こうで、三人の影が遠くなる。まさか、誘拐犯と人質にされているなどとは夢にも思わず、彼らは逃げ去っていくのだった。



「なあっ! あんた、あのグラント=ビシュタルトォ?」
 とりあえず離陸してしまえばこっちのものだ。ジャッシュは、船の上で二人と話をしていた。物珍しそうに船のあちこちを見回るケモノと、勝手にトランクから出した折り畳みテーブルを広げて、テーブルクロスをさあっとかけて、一人勝手に持参のマイカップで紅茶を飲みはじめたビシュタルトにすでに頭が痛くなってきていたジャッシュは、その勘違い爺の名前を聞いて驚いた。
 ビシュタルトは、不意に思い出したようにずれた片眼鏡を直した。ちゃんと度が入っているらしいので、別におしゃれというわけでもなさそうだ。大体、この男にそんなものを求めてはいけないような気がする。
「なんだ、私の名もそこまで広まっていたのだな。さすが天才、天才科学者…」
 間違った自己陶酔に陥りながら、ビシュタルトはうっとりと言った。
「い、いや、オレの聞いた話だと大魔法使いって…」
「そうか、なら自己紹介をせねばならんな。天才科学者のグラント=ビシュタルトだ。博士でかまわんぞ。これからもよろしく。」
「誰もあんたの呼称なんざ、きーちゃいねーよ。しかもこれからってなんだ?」
人の話をきかないビシュタルトに呆れながら、ジャッシュはため息をついた。
「にしても、このテーブルクロスなんだよ?」
「私のティータイム用のテーブルクロスだ。」
 ずず…とうまそうに紅茶を飲みながら、ビシュタルトは満足そうに言った。
「そうじゃなくって、なんで、勝手にくつろいでるんだよ、ここはオレの船だぞ!」
「むっ、茶柱が! 今日はいいことがあるぞ、青年! よかったな! ラッキーデイだ!」
「人の話きけー! 大体紅茶に茶柱たつのかよ!」
 その時、部屋の中をあちこち回ってきたメルカードが戻ってきた。
「けっこーいい船だな! 気に入ったぜ!」
「気にいったのはいいけど、この船に積み込んでるお前の飛行機の修理が終わったら、その辺の街でおろすからな…。」
 逃げる時に時間がないというのに、「オレの愛機を見捨てられるかー!」という、よくわからない熱血なメルカードのわがままで、飛行機を積んできたジャッシュは、はーっとため息をついた。が、興奮気味のメルカードは話を聞いていない。
「うわー、すげーな! このエンジン何製だ?」
「ああ、それはマーチ社製のって…ケモノ、おのれも話をきけー!」
 この二人、一通りどなってもあまり効き目がないらしく、けろりとしている。そのうちにビシュタルトが、はっと思い立ったようにカップを置いた。
「そうそう、青年、君の名前をきいていなかったな?」
「爺、あくまで自分のペースでしか話をすすめないんだな。」
 ジャッシュは深々とため息をついて、髪の毛をぐしゃりとやった。
「オレは、ジャン=ジャッシュ。リー=ヴァルロス一家の一員だ。」
「密輸業者というわけか。で、ケモノは何というのかな?」
「ケモノじゃないやい! ガランタ族だ!」
 メルカードは不満そうにいうと、えへんと咳払いをしながらいった。
「オレはメルカード=サルード。誇り高いガランタの戦士だ!」
「なるほどな。メルね。」
 ジャッシュは、ため息混じりに、とりあえず、次の街で降りるから出ていってくれ、と、こっそりいおうと考える。だが、次の瞬間、ビシュタルトがとんでもないことを言い出した。
「それにしても、居心地のいい船だ。気に入ったぞ。私はここで一人、科学者合宿をすることに決めた!」
 思わず勢い余ってテーブルをひっくりかえしそうになりながら、ジャッシュは慌てて抗議した。
「こらこらこら! そんなわけのわかんねえもんに、オレの船を使うな! しかも一人じゃ合宿にならねーだろ! 駄目だって、次の街で降りてくれよ!」
 そう言っているあいだに、横からメルカードが楽しげに声を上げた。廊下の方に出ている彼は、部屋の一室を指さした。
「おい、ちんぴら! ここ、オレの部屋にしていいか〜?」
「だから、人の話をきけっていってんだろうが!」
 ジャッシュは、困って前髪をかいた。操縦席の方に目をやると、写真立てのヴァルロスが、異様にさわやかな笑顔でこちらをみているのがわかる。
(親分、オレって、このままでいいんでしょうか?)
 戸惑いながらそう聞くと、どこからともなく、
『いいんじゃねーの! オレ、人いっぱいいるの好きだし!』
 という、無責任な声が聞こえてきそうだった。ジャッシュはため息を深々とついて、軽く額に手をおいた。
 しばらくはこんな日々が続くのかも知れないなあと思いながら、ジャッシュは自分のお人好しさがつくづく憎らしくなるのだった





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背景:空色地図 -Sorairo no Chizu-







©akihiko wataragi&reina miturugi