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4.5章-1 (やった…オレはついにやったぜ…っ!!) ジャッシュはその時、目も覚めるような晴れ晴れとした青空の下、心の中で盛大にガッツポーズを決めていた。 降りそそぐ陽の光も、今日は一段と眩しくみえる。まるでお天道さんまでもが自分の偉業達成を祝福してくれているようだと、ジャッシュはしみじみ思った。 (ここまで長かったもんなぁ…でも、ついに…っ!!) 目の前の光景に思わず涙ぐみそうになる。 そこにあるのは、水を張ったタライ。 その隣にカゴ一杯の洗濯物。 そしてふくれっつらを隠そうともせずそこに座るケモノ…もとい、メルカード。 「なんでオレがこんなことしなきゃなんねーんだよ!お前の仕事だろ〜!!」 「違うわっ!最初っから当番制っつってるだろ!ぐだぐだ言わずに洗え!」 そう。“家事当番制”。これを提案して初めて(つまり、居候が居ついてから初めて)ジャッシュはケモノの捕獲に成功したのだった。 洗濯時や清掃時、はたまた食事の準備の時、手伝ってくれるティアラを除き、奴らはいつの間にやら消えるのだ。船の中から出られないはずなのに、どこを探しても見つからなくなる。消えないのは寝ている時のランスロットとbRくらいで、bRに手伝わせるほどジャッシュも無謀ではないし、寝ているランスを起こそうと思うほど自殺願望も強くない。 ビシュタルトはどこかに雲隠れし、メルカードすら何故か見つからなかった。ちなみにヴァルロスにいたっては見つける気もない。彼の家事音痴は長年身にしみて思い知っているから。 それが。 (やっとケモノに家事を…っ!諦めないで良かった…っ!!) 偉大なる家事当番制への第一歩である。 「なんでオレが洗濯なんか…っ!毛が濡れるだろっ!!」 「拭けばいいだろ!」 しかしこの後に及んでまで不満を漏らすケモノを、ジャッシュは一喝した。 「ぐちぐち言わずにさっさと洗えよ!男らしくねーぞっ!!」 「んだと!?」 メルカードの目が剣呑な光を宿すのを見て、ジャッシュは肩を竦めて見せた。 「男なら男らしく、言い訳もせず洗うよな?それともガランダの男はそうじゃないのか?どんな種族の男よりも男らしいと思ってたんだけどな…まさか言い訳ばかりの女々しい種族とは…」 「…!ガランダの男は誰よりも男だっ!!見せてやらぁっ!洗ってやるぜ、男らしくっ!」 うおおお、と雄たけびを上げながらもの凄い勢いで洗濯板に衣類をこすりつけはじめたメルに、「おお、やっぱ男だな〜!」と適当な賞賛を送りながら、ジャッシュはちょろい、と一人ごちた。いいんだろうか、こんなにちょろくて。 ジャッシュが何となく奴の行く末を案じていると、背後の扉が開いた。船の中から顔を覗かせたのはティアラだ。 「さっきから何か獣の叫び声みたいなものが聞こえるんですけど…何でしょうか…?」 ティアラは不安そうに甲板を見渡し、すぐにその音源を見つけた。それがメルカードであり、彼が洗濯をしているということに気づいた彼女は、一気に表情を明るくさせた。 「わぁ、メルさんお洗濯ですか!?偉いですっ!!」 感激したように送られる拍手に、メルカードのひげがぴくりと動く。 「ま、まぁな!男だからなっ!!」 「かっこいいです〜っ!!」 (…この嬢ちゃんの天然っぷりもどうかと思うなぁ…) メルカードを本気で褒めるティアラに、ジャッシュは軽く頭を掻く。 なんだろう。やはり浮遊大陸の人々は何か自分たちと感覚が違うのだろうか、と思わずにはいられない。 ティアラに褒められたメルカードはますます図に乗ったらしく、どんどんと衣服を泡立てるスピードがあがっていく。それを見て、ティアラもにこにこしながら、タライをはさんでメルカードの向かいに座る。 「あたしもお手伝いしますね!」 ケモノと少女が洗濯をする光景に非常になごみながらも、ジャッシュは先ほど…メルに洗濯を持ちかけた時に持った疑問がわきあがってくるのを感じた。 (…上の大陸って洗濯機ないのか…?) 最初、ジャッシュは捕獲したメルカードをいつも使っている洗濯機の前に連れて行ったのだ。しかし、彼はそれをしげしげと眺めた上で、大真面目に「何だ、コレ。飛べるのか?」と抜かした。もしやと思い、倉庫からタライと洗濯板を引っ張り出してくると、「何でオレが洗濯なんか!」と叫んだのだった。 そして今、ティアラも手洗いであるこの状況に何の疑問も抱かず、むしろ慣れきった手つきで服を洗っている。 (…ここまで上と下で文化に差があるとはな…) それともたまたまこの二人の住む土地だけがこうなのだろうか。いや、それどころか、この二人だけがこうなのかもしれない。 (…なんかマトモな上の住人がいねぇから分かんねぇや…) ねぇさんは下の大陸の人だから除外。じじぃは上の人だが、科学マニアだ。例え上の住人が全員手洗いでも妙な機械を使っているに違いないので、参考にはならない。bRはおそらく上の民だが、そもそも人としてマトモな状態とは言えない。親分にいたってはもう人じゃない。 (このメンバーだと…異文化コミュニケーションっつーか、異星人との交信って気分…) 唯一まともと言えるであろうティアラが砂漠の中のオアシスのようだ。 思わず救いを見つけたような目をティアラに向けると、彼女もその視線に気付いて、ジャッシュに笑いかけた。 「それにしても本当に良いお天気ですね…今日は絶好のお洗濯日和ですよねっ!!」 「そうだな〜!あったかいし、風も気持ち良いしな」 緩やかな風と降り注ぐ光に、ジャッシュもティアラに微笑み合った時。 「雨降りますよ!」 前触れなくそんな声が掛けられて、ジャッシュとティアラはその表情のまま固まった。 「………。」 声の方を見遣ると、いつからいたのかは知らないが、そこには闇色の髪の少年がにこにこして立っていた。 「………。」 @何時の間に現れた? Aお前は何しでかすか分からないから甲板でちゃ駄目って言ってなかったっけ? B雨降るって何のことですかね? 彼を見た瞬間、ジャッシュの脳内を三種の疑問が瞬時に駆け巡ったが、そのどれもが言葉にならず、またそのどれもを総称したような一言が口をついて出た。 「へ?」 「雨降りますよ」 bRは訊き返されたと判断したのだろう、先ほどと同じことを繰り返す。 「………。」 再びジャッシュは沈黙した。そのまま頭上を見上げる。 雲ひとつない快晴。風は穏やかで、太陽はまぶしい。予報でも今日は一日快晴で、雨が降るなどということは一つも言っていなかった。 (これはもしかして、メルが洗濯してるなんて雨が降る…ってことを言ってるのか…?) しかしbRにそんな高度な嫌味(?)が言えるとは思わない。では、実際に雨が降るということを示していることになるが、それには現状が全くもってそぐわない。 メルカードとティアラも空をぽかんとして見上げている。 「…めっちゃ晴れてるぞ…?」 「…雨振りそうには見えないですよね〜…?」 ジャッシュは微笑んでいる少年に、慎重に問いかけた。 「雨、降るのか?」 「はい」 「…何で?」 根拠を尋ねると、少年はきっぱりと言った。 「降るから!」 …全く理由になっていない。 「あのな〜…」 「そうか、雨が降るのか」 これまた唐突に響いた声に、ジャッシュは口をつぐんだ。おそるおそる振り返る。 「…あぁ…」 @…この船には普通に現れる人はいないんですかね? Aあんたは雨が降るってことを信じるのか? Bあんたらのその組み合わせは何ですか? 背後に立っていたビシュタルトとランスロットに、ジャッシュはそれらの疑問を抱かずにはいられなかったが(特にB)、ジャッシュが疑問を投げかける前に、ビシュタルトが口を開いた。 「我々はちゃんとその扉から出てきたぞ?お主が気付かなかっただけだろう。共にいるのは午後のお茶の時間だからだ。一人で飲むよりは二人で飲むほうがやはりうまいだろう?ランスロットはなかなか味も分かるのでな」 「…オレ、まだ何も言ってませんが?」 「顔を見れば言いたいことぐらいわかる。ふふ…科学の力ということだ」 一体どのあたりが科学なのか、小一時間くらい問い詰めてやりたい。 「しかし今日はオープンカフェとしゃれこもうと思って出てきたのだが…」 「…いつの間にか甲板に備え付けてある机と椅子一式はやっぱあんたの仕業ですか…」 ぼそりと呟くジャッシュの言葉など聞こえないように、ビシュタルトは沈痛な面持ちで頭を振った。 「雨になるというのなら仕方がない…今日のところは諦めて、場を移そう」 「無視すんな!つーか、ちょっと待て!!」 くるりと踵を返そうとしたビシュタルトの白衣を、ジャッシュははしっ、と掴んだ。無駄にでかいじじぃが、怪訝そうにジャッシュを見下ろしてくる。 「何だ?」 「雨になるならって…なるのかよ、この天気で!」 ジャッシュが空を指差すと、メルカードとティアラがつられたようにぽかんとした表情で空を見上げる。ランスロットも無表情に、ビシュタルトも眩しそうに空を見たが、すぐに視線をジャッシュに落としてきた。 「うむ…お主の気持ちも分からないでもないが」 じじぃは重々しく言うと、片眼鏡を押し上げた。 「雨になると言っているのだろう?bRが」 「そりゃ…そうだけど」 「ならばなるのだろう」 あっさりと頷いたじじぃに、ジャッシュは本気で呆気に取られた。 「あ…あのさ、じじぃ…」 「何だ?」 「今、すげぇ天気良いよな…?」 「うむ」 「予報でも100%晴れるって言ってたんだけど…」 「らしいな」 飄々と頷くビシュタルトに、ジャッシュは怒鳴った。 「ならどうして雨になるって言うんだよっ!!」 「私に聞かれても困る。だが、bRがそう言っているのだろう?」 当然のことのように言われ、ジャッシュは絶句するしかなかった。 一覧 背景:空色地図 -Sorairo no Chizu-様 感想などあればお願いします。 |